うさぎのジャータカ

『山脈の麓の森に一羽のうさぎが住んでいた。そばに川が流れ、小さな町があった。うさぎには三匹の仲間がいた。カワウソとジャッカルと猿であった。月を見て、うさぎは翌日が斎日であることがわかった。彼は仲間達に、断食をし、道行く乞食には誰であれ食料を与える用意をするよう言って聞かせた。
 翌日、カワウソが川へ行くと、匂いを感じた。それは、釣り人が砂の中に埋めた串刺しの七匹の紅マスの匂いであった。彼はそれを掘り出し、大きな声で「持ち主はいませんか」と尋ねた。しかし、釣り人は下流の方へ行ってしまっていたために応答する者はなく、カワウソは「そのうちに食べることにしよう」と言って、自分の巣へ持ち帰った。
 ジャッカルは野原の見張り番の小屋で、二串の肉とトカゲとポット一杯のミルクを見つけた。彼もまた持ち主を呼びも止めたが、誰も現れなかったので、「そのうちに食べることにしよう」と思いながら、自分の巣へと持ち帰った。
 猿は森の樹からマンゴーを一房もぎ取って、「そのうち、食べることにしよう」と言って、自分の住処の中に置いた。
 うさぎは外に出て、食料の草を集めようと思った。しかし、もし乞食がそばを通りかかった時、草では充分な食料にならないことに気がついた。うさぎは思った。「私には米も油もない。もし乞食がやってきたら、この私の肉を与えよう。」
 この決断は功徳に満ちあふれたものであったために、天にいる帝釈天を感激させた。彼はバラモンを装い、地上に降り立った。初め、彼がカワウソのところに行くと、カワウソは七匹のマスを捧げた。バラモンは翌日戻ってくることを約束した。次に彼はジャッカルのところへ行くと、ジャッカルは肉とトカゲとミルクを捧げた。ここでもバラモンは、また戻ってくるといった。猿の住処でも同様であった。
 ついにバラモンはうさぎのところへやって来た。うさぎは言った。「食料を求めてようこそ私のところへおいでくださいました。というのも、私は、これまで一度も差し上げたことのないものを差し上げようと思っているからです。しかし、徳の人でいらっしゃるあなたが殺傷なさるには及びません。火を焚きに行って下さい。用意ができましたら、私はその中に飛び込みます。私の身体が焼き上がったならば、その肉をお召し上がり下さい。」
 バラモンは神通力を用いて火を熾した。うさぎは毛の中に虫がいるかもしれないことを思い出し、三度身を震わせて、虫を殺さないようにした。そして、火の中に飛び込んだ。しかし、あたかも雪の洞窟の中に入っているかのように、その中に身を横たえていた。
 うさぎは言った。
「バラモンよ。あなたが熾した火では私の身体の毛は熱くすらなりません。どういうことですか。」
「賢きひとよ。私はバラモンではない。私は帝釈天である。あなたを試すためにやってきたのだ。」
 うさぎは言った。
「それは骨折り損というものです。というのも、世界中のすべての者が私の喜捨の心を試しに来たとしても、私を喜捨をいやがることなどありはしないのですから。」
 帝釈天は言った。
「賢きうさぎよ。その功徳に対して、輪廻の世界の終わりを告げてあげよう。」帝釈天は山を手に取ると、それから液体を搾り取り、その液体で月にうさぎの輪郭を描いた。そして、うさぎを柔らかな草の巣の上に置くと、天の住処へと帰っていった。
 うさぎとその友達は幸せで徳に満ちた生活を送り、その行いによって入滅を果たした。
 話を終えるにあたって、ブッダは、これらのうち、カワウソはアーナンダで、ジャッカルと猿は他の二人の弟子、うさぎは”私自身であった”ことを明かした。』
 『仏教』著者M.B.ワング(訳者:宮島 磨)青土社

仏教 (シリーズ世界の宗教)

マドゥ・バザーズ・ワング/青土社

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by qsso | 2017-07-16 07:46 | つれづれ | Comments(0)
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