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柔らかな頬

桐野 夏生/講談社

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世界に慰藉などない。
…と頭では分かっていても、カラダが、ココロが…求めてしまう…
だから、せめてフィクションの世界ぐらいは…と、ひとはあくせくする
おもしろかった 胸糞悪かった とんでもない ありきたり…
そこで、しょうしょう救われたところで…この世に一滴の慰藉もないことは揺るがない
むしろフィクションの慰藉によって、その空白が読者を押しつぶしてしまう
この作品の登場人物たちも、その存在しない出口を世界に求めていく
いい学校に入ったら いい会社に入ったら 結婚したら 子どもができたら…
すでに騙しようがないほど 空白に圧し潰されている

救いがないことが 唯一の救い…
まるでキリストの死のように…

物語は不倫現場から緩い助走をしだすと
幼女失踪事件は藪の中…
世界が 運命が 時間が ぼくらを翻弄し 漂流する
浮標(ブイ)に近づけば 近づくほど 悪夢のような それでいて救いのような暗示がぽかんと浮かんでは消えていく
和解などない
救いようのない日本海留萌の潮風に
赤らんだ柔らかな頬は…
微かに笑ったような…
うぶ毛が西陽で黄金色に光った…
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ダークゾーン

貴志 祐介/祥伝社

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小説はゲームだ。
読者はゲーマー。
だから、小説家はゲーマー(読者)を、その作品(環境)の中に催眠をかけるようにいざない
そこで縦横無尽に遊ばせてくれる…
まさに読書は水槽の中の脳(パトナム) 脳の自己完結性
時を遡り、あるいは進めて、どんなものにもなれる…どんなところへも行ける…
たしかにディスプレイもコントローラーもキーボード&マウスも(ハードウェアは)ないが、脳内で行われていることはきっと一緒!? なはずである(笑)。
なので、どれだけプレイアブルな環境なのかが 面白いか 面白くないか を決める
この作品はそう割り切って、内容はほぼゲームバトル という大胆な手法で描かれている…
ミステリー要素は、物語のほんのツマ程度だと思った方がいい(もちろん、ポイントとなる切断線ではあるんだけど)
貴志ファンのなかでも好き嫌いが多少分かれるだろう。

登場人物は、いまをときめく青年棋士(もっとも主人公は三段リーグの伸び悩むプロ予備軍だけど)をとりまくひとたち中心の構成…
切り口は不条理もののように目を覚ますとチームバトル
舞台はあの軍艦島で クローズド・サークル 7番勝負がはじまる
主人公が棋士だから、将棋の擬制ゲームのような気がするが……
civilization のような League of Legends のような はたまたダークソウルのような
ものとも似てなくはない

読んでることすら忘れてしまうような文体、
つまり、自分が語っていると錯覚するような文体が、
読者をダークゾーンに降臨させる
「なにがなんだかわからないけど、とにかく敵を殺(ヤ)るしかない」

それにしても7番勝負(引き分け8番勝負)は長すぎた
三番勝負で昇格までが限界だった気がする
なので多視点で物語にも戦闘にも厚みを持たせればよかったのではないか…
とも思ったが、著者が書きたかったものがこのスタイルなのであろう…

「他人とは地獄のことだ」(サルトル「出口なし」)
僕らは他人に囲まれている
母、父、兄弟、友達、上司、同僚、お客さん、ライバル、恋人…
それはつまり「人生とは地獄のことだ」
その地獄で、たえず誰かが
「戦え。戦い続けろ。」(489頁)
と囁く…
しかも、人生は一回こっきりの一番勝負 負け惜しみも弁解もきかない やり直し無し
失敗してしまえば、
人生こそがダークゾーン 紅蓮の煉獄に反転する
必敗の屈辱が永劫回帰する
 それが人生なのだ…
 そこに意味はあるのか…?
 救いはあるのか?

今夜もダークゾーンで…救いを求める…
なつかしい人の声がする…
さぁ…行ってみよう…
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